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このままでは原発テロが起きる 週刊朝日2011年9月23日号配信

このままでは原発テロが起きる
週刊朝日でしかわからないフクシマの現実
週刊朝日2011年9月23日号配信

本誌が先週号(9月16日号)で報じた福島第一原発「完全ルポ」は、大反響だった。これまで一歩も現場に足を踏み入れることができなかったマスコミ業界は騒然となり、「大本営発表」で情報をコントロールしてきた政府、東京電力には激震が走った。しかし、本誌が伝えるべきことはまだある。今回は、さらなる「深層」をお届けしよう。 (今西憲之+本誌取材班)


 福島第一原発「完全ルポ」を掲載した本誌(9月16日号)が発売されて、すぐに政府が何をしたか。「誰が(記者を)中に入れたんだ」と、東京電力に"犯人捜し"を命じたのである。

 本誌先週号が都内に出回った9月5日、原発復旧作業の拠点となっている免震重要棟2階の緊急対策室で、回線越しに東電本社の幹部が怒鳴った。

「記者を中に入れるとは何事だ!」


「いったい誰が原発に入れたんだ!」

 本誌スクープの犯人捜しが始まった瞬間だった。

 いま現場で最優先でやるべきことは、こんな不毛な会議なのだろうか。

 事実、緊急対策室で、こうしたやり取りに対し、福島第一原発の吉田昌郎所長はこう言ったという。

「いまはそれより、とにかく原発復旧に向けて、一致団結して取り組むべきではないか」

 まさにそのとおりだ。私の原発内の"水先案内人"である東電幹部のX氏も、呆(あき)れた様子で言う。

「週刊朝日が出て、もうフクイチ(福島第一原発)の現場は大変ですよ。さっそく本社は、現場の社員たちの動向を調べています。はっきり言って、そんなことは復旧作業に何の役にも立たない。現場はギリギリの作業を続けているというのに......」

 そして、こう続けた。

「ここまでピリピリしているのは、これまで週刊朝日が、フクイチの"最高幹部"の一人が語る『フクシマの真実』と題した記事を何度も掲載してきた経緯もあるからです。官邸から"どうなってるんだ!"と怒鳴られ続け、ごまかすのに懸命になっているのですよ」

 いま政府、そして東電がやるべきことは、一刻も早い原発事故の収束、そして、二度とこのような事故が起きないように「道筋」を付けることである。

 ところが、野田新政権は早くも揺れている。「脱原発」の方向性について、野田佳彦首相が「新規建設予定は14基あるが、新たにつくるのは現実的に困難」と発言したのに対し、女房役の藤村修官房長官がすかさず、すでに着工している原発は「新設」とは見なさない、との認識を示した。

 これには唖然(あぜん)とする。現場を見れば、この事故だけでも、いまだ手に負えない状況だということは一目瞭然(りょうぜん)なのだ。

◆X氏が怒鳴った、オレンジの配管◆

「そこに近づいたらいけない!」

 いきなりX氏が叫んだのは、私が写真を撮ろうと、そこかしこに張り巡らされたオレンジ色のホースの一本に近づき、カメラを構えたときだった。

「黒のホースはいいけど、オレンジのホースに近づいたらいけません。正直なところ、いつどこで高線量が出ているかわからない。アップの写真を撮るなら、望遠レンズにしてください」

 いま原発を安定化させるために最も重要な装置、それが7月から本格稼働した「循環注水冷却システム」である。これは、原子炉建屋などの地下にたまった汚染水を浄化し、循環させて原子炉の冷却水として再び使うシステムだ。

 原発の敷地内に総延長約4キロにわたって張り巡らされたこの循環システムは、まず東芝製の装置で「油を分離」し、次の米キュリオン社製の装置が「放射性セシウムを吸着」、それを仏アレバ社製の装置が「薬品で除去」し、最後に日立製の装置が処理水から塩分を取り除いて「淡水化」する。こうして、高濃度汚染水をゼロにする計画だ。

 X氏の案内で、復旧作業の命運を握るこの循環システムを見て回った。

 車に乗り、砂ぼこりが舞う道を進んでいくと、黒い大きな土嚢(どのう)の壁の奥に3本の国旗がはためいていた。中央が日本、左にフランス、右にアメリカ。その下に「滞留水回収・処理制御室 TOSHIBA」という看板が見える。これが、循環システムの中枢という。

 周囲には、汚染水をためる箱形のタンクがずらり。そして、汚染水が通るというオレンジ色のホースと、電気系統の配線が通るという黒いホースが、縦横無尽に這(は)っている。

 私が写真を撮ろうとしてX氏に怒鳴られたのは、このオレンジ色のホースだった。汚染水が通っているというわりには、あまりにも貧相な印象だ。現場ではこんなにも身近に、そして無造作に"危険"が横たわっているのである。

「現場では、作業員たちにも近づかないようキツく言ってあります。周囲の黒い土嚢も、大雨による洪水対策であると同時に、万が一、汚染水が漏れ出した場合に備えたものです」(X氏)

 稼働以来、ずっとトラブル続きだった循環システムは一見して、複雑な経路だということがわかる。傍らのX氏が説明する。

「東芝、日立に加え、米仏のシステムを一つにしたのが、無理があった。いま、もう一系統、別のシステムをオールジャパンでやっています」

 それが、8月18日に本格運転が始まった汚染水の新浄化装置「サリー」である。東芝製のこの装置の導入で、汚染水浄化の最大処理能力は上がった。それに伴い、周囲では、汚染水や処理水をためるタンクの増設作業や、廃棄物の一時処分のための大きな穴の掘削作業が着々と進んでいた。

 日立の「淡水化」装置には〈心をひとつにネバーギブアップ福島 がんばろう東北〉というメッセージが大きく掲げられていたが、ようやくシステムは"ひとつ"になりつつあるのか。

◆ゲートの警備は清掃作業の会社◆

 もっとも、原発の"危機"はこれだけではない。中に何度も入って、私には懸念することがあった。「警備」の問題である。

 循環システムを見て回ったときのことだ。汚染水が貯蔵される長さ10メートルはあろうかという青いタンクが整然と並ぶ場所を前に、X氏が厳しい口調でこう語った。

「この辺りのタンクを結ぶホースは家庭用のものとは違い、直径20センチほどある、特殊で頑丈なものです。しかし、しょせんホースはホース。鋭利な刃物かなんかで傷つけられて、汚染水が漏れるとフクイチは終わります。大量の放射性物質が撒(ま)き散らされてしまう」

 つまり、その気になれば、簡単に「テロ行為」が起こせてしまうというのだ。

 原発入り口のゲートチェックからして、不安が付きまとう。確認するのは、運転席にいるドライバーの「通行証」だけ。バスで作業員たちが来るときも、一人ひとりのチェックはなかったという。実際、協力会社の作業員がこう証言する。

「バスに乗って、防護服に防毒マスクさえしていれば、個人のチェックはなく、誰でも入れました。うちの会社でも、作業はしないけど中を見てみたいという人を一緒に連れていったことがありましたよ」

 しかも、事故から2カ月ほどは、原発内で主に清掃作業を担当する会社が、ゲートの警備員役もしていたそうだ。

「もともと大手警備会社に依頼していたんですが、原発事故で安全確認ができず、来なくなってしまった。ようやく戻ったのは6月ごろ。事故前はIDカードを機械に通さないと入れませんでしたが、収束作業に追われるあまり、セキュリティーが疎(おろそ)かになっていたのは事実。ハッキリ言ってザルでした。顔写真入りの作業員証を発行して、確認を始めたのは7月末から。管理がずさんすぎて、誰でも入れてしまう状態だったと認めざるを得ません。原発内の映像、動画があまりに外部流出するので、最近になってカメラなどの持ち込みを禁止するため金属探知機を設置し、ようやくセキュリティーは事故前の状況に戻りつつある」(X氏)

 さらに、原発の敷地を囲む高さ2メートル程度のフェンスも、上に有刺鉄線があるとはいえ、簡単に乗り越えられそうだ。作業の大半が終了して辺りががらんとする夕刻、1時間近くホースの場所にいたが、警備員や警察官の姿はなかった。

 ひとたび原発内に入ってしまえば、"テロ対象"はいくらでもある。前述したように、循環システムの汚染水は"ビニールホース"を通って処理されている。原発内に張り巡らされた全長何キロというオレンジ色のホースである。協力会社幹部の一人はこう言うのだ。

「ホースを破るのはそう難しくない。警備員も、たまに場内を見回りしているくらいです。命が惜しくなければ、原子炉建屋内に入って良からぬことをするのは朝飯前です」

 原発事故から1カ月程度の時期は、近くの国道6号を自衛隊や警察車両が頻繁に行き来していた。原発復旧作業の前線基地「Jヴィレッジ」では、自衛隊の大型輸送機が連日のように発着陸し、ここは本当に日本なのかと思うほど、ものものしい光景だった。だが、いま国道の自衛隊の姿はめっきり少なくなり、たまにパトカーと救急車が走行しているくらいだ。

 現在、原発に向かう道路の大半は封鎖されているが、抜け道はある。海側は、まったく警戒されていない。特別に訓練されたテロリストがその気を起こせば--と思うとゾッとする。

 最近になって連日、ロシア軍の艦艇や軍用機が演習のためか、日本周辺に近づいたというニュースが伝えられる。現場を知るX氏ら東電幹部や、協力会社幹部らの意見は共通している。

「ロシア軍のニュースを聞いてゾッとした。自衛隊に再び来てもらって、戦車を常駐させ、海や空も警備してほしい。警察の警戒も倍増してほしい」

 本誌はセンセーショナルに危険性をあおろうとしているわけではない。

 X氏もこう嘆息する。

「こうすればもっと作業効率よく物事が進むのに、とジレンマを感じることは日常茶飯事です」

 こうした現場の空気が一向に政府や東電本社に伝わらないのも、そこには決定的な"温度差"があるからだ。そして、この温度差が、迅速な復旧作業の妨げになっているのである。

 非常事態だからこそ、風通しのいい環境が必要--本誌はそう繰り返し訴えてきた。そうしなければ、この国に暮らす人の命は守れないのだ。
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ジャーナリスト、池田知隆のブログです。最近の記事、イベント情報などを掲載しています。

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