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波、都市部で地下街などの避難ルート苦心 関西の防災力(1)4回連載

波、都市部で地下街などの避難ルート苦心 関西の防災力(1)4回連載

日経2011/9/27 6:02
 巨大津波を伴った東日本震災は、防災のあり方に抜本的な見直しを迫っている。近畿では大阪などの都心部を津波が襲うリスクが判明。自治体や企業は対策強化に動く。この間も近畿や中部、首都圏を台風12、15号が直撃し、ライフラインや交通網といったインフラの脆弱さが浮き彫りになった。大災害時の被害軽減へ、どう手を打つべきか。動き出した減災の最前線から報告する。


 「落ち着いて3階以上に避難を」。大阪・梅田の地下街「ホワイティうめだ」で今夏、東南海・南海地震に備え、初めて津波被害を想定した避難誘導訓練が実施された。

■初の誘導訓練



多くの人が行き交う梅田地下街(26日、大阪市北区)

 「集中豪雨や淀川決壊を想定し、避難ビルを決めている。津波到来まで約2時間あり避難は可能」。運営する大阪地下街(大阪市)の萬谷信幸理事は強調する。

 訓練は担当者ら約30人が参加。来店客らを誘導するルートを確認した。もっとも1日60万人が行き交い、ピーク時に2万人が集まるだけに、懸念材料もある。萬谷理事は「パニックが心配。いかに冷静に行動できるか、情報提供がカギになる」とみる。

 東日本震災後、近畿の臨海部自治体は一斉に津波対策に動いた。東南海・南海地震では従来、マグニチュード(M)8.4を想定。大阪市には最大2.9メートルの津波が来るとされていたが、M9を想定し、暫定的に2倍の規模で対策を見直す。

 大阪臨海部に5~6メートルの津波が来ると、満潮時なら防潮堤を越えて浸水。川を遡上し、大阪・梅田や難波など繁華街に流入する恐れさえある。神戸市都心部や阪神間も事情は同じだ。これまで地下街には津波に備えた避難対策はなく、大阪市は7月、市内の地下街運営会社や鉄道会社に作成を指示した。

■高架駅も活用

 従来、臨海部の6つの区の一部で浸水の恐れがあるとされていたが、対策の対象に福島、浪速など4区を追加。避難用のビル確保を始めた。8月以降、上新電機本社・店舗(浪速区)や家具専門店のイケア鶴浜(大正区)などと相次ぎ協定を結んだ。

 だが、取り組みは緒に就いたばかり。試算では日中で最大85万人を収容するのに3階以上に135万平方メートルのスペースが要るが、公共施設だけでは50万平方メートルしかない。市危機管理室の中川政博・震災対策担当課長は「高いビルが少ない地域もあり実際に場所を確保できるか見えない」。

 関西広域連合もJR西日本や南海電鉄などと高架駅を避難所に活用する検討に着手した。大阪府危機管理課の看舎邦亮課長補佐は「国の中央防災会議が新たな被害想定を出すのは来年夏以降。それまで待てない。先行して避難策を考える」と危機感をにじませる。

 電力、ガスや石油・化学工場が立地する臨海部のコンビナートでも対策は急務だ。大阪府は7月以降、大阪市、堺市や企業と組み「大阪北港」「堺・泉北」など4地区で検討会を設けた。コンビナートの大半が水没するのを前提に、避難策と被害抑制策を検討。今年度中にまとめる。

 ただ、地震や津波で損壊する恐れがある石油や化学薬品などを貯蔵するタンクのハード面の対策は手つかずのまま。

 実は耐震性の決まりはあるが、津波や流れてくる構造物が直撃するのを想定した強度基準はない。国は急きょ検討を始めたものの、「基準が決まらなければ企業は動きにくい」(府保安対策課)と対応に苦慮する。

水没被害の詳細試算 必要

 震災対策の見直しは始まったものの、近畿では一連の対策の出発点となる津波の被害想定が固まっておらず、まず詳細なシミュレーションが必要になる。

 「大阪は上町台地を半島のように残し、多くの地域が水没する恐れがある」。人と防災未来センター(神戸市)の河田恵昭センター長は6月、奈良市内の講演で、独自の津波被害の試算を明らかにし、警鐘を鳴らした。大阪府・市の予測を超え、周辺市にも及びかねないリスクを住民に周知すべきだと訴える。

 震災対策は津波への備えを強めるだけでは不十分だ。南海地震を含む30年間には内陸部でマグニチュード(M)7級の直下型地震が頻発する。「阪神大震災(1995年)から頻発期に入った」と指摘する専門家も多い。近畿には上町断層、奈良盆地東縁断層帯など大地震を起こす断層が少なくない。

 特に大阪市を通る上町断層が震源になると「最悪の場合、大規模火災が多発する」と関西学院大の室崎益輝教授は指摘。建築物の耐震・耐火の強化を訴える。

 異なるタイプの震災に同時にどう備え、有事の人的・物的被害をできる限り減らせるか。自治体、企業、住民とも知恵と決意が問われる。

(奈良支局長 川上寿敏)

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軟弱地盤、直下型地震に備え 関西の防災力(2)


日経2011/9/28 6:00
 「超高層ビルの耐震性を診断するにはいくらかかるのか」。東日本大震災の発生後、竹中工務店には高さ100メートルを超えるオフィスビルやマンションのオーナーから問い合わせが相次いだ。同社大阪本店の構造部門を統括する前野敏元部長は「長周期地震動への関心が高まり既に大阪や神戸のビルオーナーに4件の見積もりを出した」と明かす。



大阪府の本庁舎は震度6強の地震で倒壊の恐れがある(大阪市中央区)

■「咲洲」の衝撃

 ビルオーナーに不安をもたらしたのは、震度3の揺れで壁や天井が壊れた大阪府の咲洲(さきしま)庁舎の問題だ。2000年以降に設計した高層ビルは長周期の揺れにも耐えやすい構造だが、同庁舎は1990年ごろの設計。大阪府は防災拠点としての活用を断念せざるを得なくなった。

 だが、発生する地震によっては咲洲庁舎より先に府の本庁舎が機能を喪失することも懸念される。建物の耐震性を示す「Is値」は最も低いレベルで、このままでは震度6強の地震で倒壊・崩壊する危険性が高い。本庁舎の近くを通る上町断層帯は想定マグニチュード(M)7.5と、関西で最も危険な断層の一つとされる。

 上町断層帯をはじめ、近畿にはM7以上の地震を起こすと想定される活断層が10以上ある。立命館大学・歴史都市防災研究センター長の土岐憲三教授は「関西の都市では、東南海・南海地震よりも内陸部の直下型地震の脅威が大きい」と語る。例えば大阪市の想定では、東南海・南海地震の死者が100人以下なのに対し、上町断層帯の地震では8500人に上る。

 9月上旬、台風12号で豪雨の被害を受けた奈良県十津川村。16日午前に同村で震度3の地震が起き、自治体関係者らは土砂崩れ危険箇所などの点検に追われた。その後に目立った揺れはないが、奈良県、和歌山県、大阪府の境には中央構造線断層帯が縫うように走る。地震が起きれば3府県の一部で震度6弱以上、広い範囲で震度4~5強の揺れが想定される。

■インフラ影響も

 京都大学名誉教授の岡田篤正氏は「大阪、神戸、京都など関西の地盤は軟弱。関東と比べても揺れが大きくなりやすい」と指摘する。大阪市の中心部では大地震と同時に地盤沈下が起き、地下鉄や電気、ガスなどのインフラに影響する可能性もあるという。

 京都市は今年度、地震による火災のリスクを減らそうと、密集市街地の道幅や道路形状の調査を始めた。特に木造住宅や細い路地が多い西陣や東山では、地震で倒壊した建物が道を塞げば、周囲に燃え広がって大惨事になりかねない。都市づくり推進課の担当者は「市民の危機意識が高まったのを機に対策を進めたい」と話す。

 東日本大震災は阪神大震災を経験した関西でも防災への関心を高めたが、「現状では直下型地震と(津波なども起きる)海溝型地震を区別していない市民も多い」(大阪市の危機管理室)。歴史的に見ると、南海地震の直前には近畿一円で直下型地震が相次いで発生している。海溝型地震への備えも重要だが、土砂崩れや火災などの被害も含めて直下型地震の被害をいかに防ぐかも関西の都市の大きな課題だ。

(京都支社 荒木勇輝)

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インフラ耐震進むが…津波対策は国指針待ち 関西の防災力(3)


日経2011/9/29 6:03
 1995年の阪神大震災では、強じんなはずの高速道路の橋脚が折れるなど予想もしない事態が次々と起きた。関西ではこうした経験を踏まえ、インフラの震災対策が進められてきた。


耐震補強を済ませた高速道路の橋脚(近畿自動車道門真インター付近)
 近畿自動車道門真インターチェンジ(大阪府門真市)のすぐ下。高速道路の高架を支える橋脚がずらりと並ぶ。「鉄筋コンクリートや鋼板を巻きつけるなどして、すべての橋脚の耐震補強を済ませています」。西日本高速道路会社関西支社の緒方辰男技術士は説明した。震災後、直ちに取り組んだ補強の眼目は「橋脚の粘りを増し、大きな揺れにもしなやかに対応できるようにする」ことだった。

■2つの地震想定

 阪神高速道路の運営主体、阪神高速道路会社は橋桁同士や橋桁と橋脚を高強度ケーブルで結ぶなどの補強を進める。「橋脚の強化も含め、対策は今年度末までに完了する」(保全交通部)。阪神級の内陸直下型、東南海・南海の海溝型の2種類の地震を想定する。

 鉄道も対応を急ぐ。西日本旅客鉄道(JR西日本)は10月、山陽新幹線新大阪―姫路間で「逸脱防止ガード」の設置を始める。地震などで車両が脱線した際に車輪がガードに当たることで大きな逸脱を防ぎ、被害を軽減する。大阪市営地下鉄を運営する市交通局は高架の橋脚や地下駅の柱などについて「強度が足りない部分に鋼板を巻き付けて一体化するなど補強を済ませた」(鉄道事業本部)。

 大阪市水道局は耐震性に優れた水道管「ダクタイル鋳鉄管」の導入を進めている。鋳鉄に含まれる黒鉛を球状にしたダクタイル鋳鉄でできており、従来の鋳鉄管と比べ強度に富むほか、揺れへの対応力も高いという。2009年度末の導入比率は87%。15年度末には95%に引き上げる計画だ。

■想定外どこまで

 ただ東日本大震災を受けた独自の対策には踏み込んでいない事業者が多い。国などによる新たな地震や津波の想定基準が見えないためだ。阪神高速は「津波対策の見直しを考える必要がある」と話すが、具体的な対応は「中央防災会議で方向性が示されてから」。エネルギーインフラを握る関西電力と大阪ガスも「勝手に防潮堤や耐震補強の設備を造れない」という。

 災害は地震や津波だけではない。台風12号では和歌山県などで道路や鉄道が寸断された。豪雨による増水が都市部のインフラに襲いかかる懸念もある。想定外の事態にどこまで対応するか、事業者は頭を悩ませる。

 資材や資金に糸目をつけず、一部たりとも壊れない構造物を造ることは経済性の観点から現実的ではない。西日本高速の緒方氏は「補強後の強度に自信はあるが、大地震などが発生すればコンクリートが剥がれたり、ひびが入ったりといった破損は起きる」と話す。ただ、橋脚が倒れたり、橋桁のつなぎ目が外れて落ちたり、といった重大な事態には至らないという。

 応急的な復旧工事で機能を速やかに回復させる。これがインフラやライフラインに携わる事業者が「阪神」から学んだ防災対策のポイント。これに、津波が猛威を振るい、交通網が広範囲にわたってマヒし、原子力発電所の災害も発生した東日本大震災の教訓をどう加えるか。模索は始まったばかりだ。

(大阪地方部 山村亮介)

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地震、帰宅困難「142万人」 関西の防災力(4)


日経2011/9/30 6:06
 東日本大震災が起きた3月11日。建物被害は少なかった東京でも電車が止まって駅に人が滞留し、道路は大渋滞。帰宅を断念した人は推定300万人に上った。関西の備えは首都圏より遅れており、地震後の対策を進めないとパニックなどで二次災害を招きかねない。


東日本大震災で鉄道が運休し、駅構内で座り込む帰宅困難者(3月11日、東京・小田急新宿駅)
 大阪で上町断層帯地震が起きたら――。2006年度に大阪府・市がはじいた試算では自宅に戻れない帰宅困難者は府全体で約142万人、大阪市内だけでも堺市の人口を上回る約90万人に達する。特に直下型地震の場合、地元住民と徒歩帰宅者の間で避難所や備蓄物資を巡って大混乱が起きる恐れがある。

■「マニュアルない」

 しかし地震に備える対策が優先され、地震後の対策は後手に回ってきた。「帰宅困難者対策は東日本の情報を収集している段階」(JR西日本)。臨海部の咲洲(さきしま)庁舎を含めて多くの職員を抱える大阪府も「職員を帰すかとどめるかなど、マニュアルはまだない」(危機管理課)。

 関西での本格的な対応策の第1弾は8月2日に発足した「大阪駅周辺地区帰宅困難者対策協議会」だ。設立総会には大阪府・市、JR西日本、阪急阪神百貨店、大阪地下街など75団体が出席。最も混乱が予想されるJR大阪駅周辺をモデル地区に対策を検討する。11月に市民ら約千人が参加して徒歩やバス、船で移動する大規模訓練を開き、結果をまとめて他の地区にも反映させていく。

 帰宅者が府県をまたぐため、広域対策も必要だ。関西広域連合は22日、災害時に水道水やトイレを提供する「災害時帰宅支援ステーション」を店舗に開設する協定をコンビニエンスストアやファミリーレストランなど25社と結んだ。対象店舗は約9000店に上る。来年2月に最終案をまとめる広域の防災プランでは帰宅困難者の収容、交通情報の一元的な提供などをどこまで盛り込めるかが焦点となる。

■条例で移動抑制

 1日平均14万人弱の観光客が訪れる京都市は「災害時に訪問者をどうさばくかが主要課題」(消防局防災危機管理室)。NTTドコモの緊急速報「エリアメール」サービスを8月に導入した。災害時に被災・避難情報を同社の携帯電話利用者に一斉送信する。同サービスを利用する関西の自治体は東日本大震災前はゼロだったが、今や和歌山県、大阪市、兵庫県姫路市など16自治体に増えている。

 遅れがちな帰宅困難者対策には首都圏の取り組みが参考になる。東京都は20日、内閣府と帰宅困難者対策の協議会を設立した。東日本大震災での反省を踏まえ、従来の「どう帰宅させるか」から「むやみに移動を始めない」を基本原則とし、民間企業などと収容・備蓄対策を詰めていく。

 東京都港区は一斉帰宅の抑制や水・食料の備蓄を区内事業所の責務とする防災対策基本条例を10月にも制定する予定だ。

 民間も独自に動いている。三菱地所など67社が参加する東京駅周辺防災隣組は04年から帰宅困難者対策に着手し今回の震災では施設を開放し毛布を配った。横浜や名古屋にも同様の活動が広がっている。関西の自治体、企業も震災後の備えを急ぐべき時期に来ている。

(編集委員 宮内禎一)


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ジャーナリスト、池田知隆のブログです。最近の記事、イベント情報などを掲載しています。

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