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暴走する福島原発⑥最終回 「電力改革し、分権化を進めよ  ―グリーンエコノミーで地域の自立をー」

◎暴走する福島原発⑥最終回

「電力改革し、分権化を進めよ
 ―グリーンエコノミーで地域の自立をー」

(月刊日本2011年11月号に書きました。私のホームページからも読めます)

 いまなお福島は戦場である。巨大地震がふたたび起きれば、戦場はさらに拡大する。それを避け、「脱原発依存」社会を目指すならば、自然エネルギーを増やすための電力改革に踏み切り、自立分散型社会を築かなくてならない。地域の「自立」を促すことなしに日本再生の希望はない。


○ あいまいな「脱原発依存」

 「この地をいつ去るのか、とどまるのか。何を食べ、何を食べないのか」。福島の住民たちは日々、そんな苦渋の選択に迫られている。福島県は8月に発表した復興ビジョンの基本理念で「原子力に依存しない、安全・安心で持続的に発展可能な社会づくり」とうたった。再生可能エネルギーを増やす多極分散型モデルを提言し、人の命を大切にし、安全・安心な社会をつくるという。悲痛な思いを込めた被災地からの決意表明だ。

 しかし、福島の破局的な現実に直面し、政府は「脱原発依存」社会への移行を打ち出したが、その腰はひけ、その具体的な行程は明らかにしない。ここで「脱原発」に一歩踏み込まなければ、いつ踏み出していくのか。

 野田首相は国連で「日本の原発の安全性を世界最高水準に高める」と演説し、菅前政権が新成長戦略の柱に位置付けたベトナムへの原発輸出について日本原子力発電は9月、ベトナム電力公社と契約を締結した。「自国の原発はいずれ無くしてものの、原子力技術は維持し、原発も輸出する」という政府方針は事実上の「原発継続」にほかならない。

 国民の多くが「原発はいずれ廃炉になる」と思っている。しかし、なおその巨大利権を貪ろうとする政治家がいる。電源開発三法による政府交付金や電力会社のバラマキに運命を託した自治体も少なくない。事故原因の究明は先送りされ、「迷宮入り」になりかねない。

日本では「ほとぼりが冷めるのを待ってから」という決め方があるが、誰がどこでどういう権限と責任のもとに決めたのか分からないまま、責任問題も賠償問題にすり替えられそうだ。原発をいつ、どのように停止させるのか、という本格的な議論は政権内部から聞こえてこない。無原則で、無責任で、なりゆきまかせの政治はもはや許されないはずだ。

○原発は非倫理的な技術なのか

 原発からの放射性廃棄物の最終処分ができている国はない。次世代に放射性廃棄物の処理を置き去りにするのは、社会正義にもとるのではないか。核をあつかう人間の技術が未完成なのに、それに信頼をおくことに「倫理」的な問題はないのだろうか。

 ドイツは5月末、2022年までに国内17基すべての原子炉を閉鎖することを発表した。その決断に導いたのが、メルケル首相が招集した「安全なエネルギー供給のための倫理委員会」だった。原発は人の暮らしや社会の未来に対してはたして有益なのか、それとも不利益なのか。そんな検討が倫理委員会に求められた。

 この委員会は、元環境大臣と工学系教授の2人の委員長を含め17人。キリスト教高位聖職者、科学アカデミー会長、リスク社会学者、化学工場社長、地学者、哲学者、経済学者、政治学者、労働団体代表らが含まれ、原子力の研究者は一人もいなかった。同倫理委員会の論点はこうだ。

 ①原発の安全性は高くても、事故は起こりうる。
 ②事故になれば、ほかのどんなエネルギー源よりも危険である。
 ③次世代に放射性廃棄物処理などを残すのは倫理的問題がある。
 ④より安全なエネルギー源がある。
 ⑤温暖化問題もあり、化石燃料使用は解決策でない。
 ⑥再生可能エネルギー普及とエネルギー効率の改善で段階的に原発ゼロに向かうことは、経済にも大きなチャンスになる。

 もしも過酷な事故が起きれば、原発立地から遠く離れた無関係な人々の生活が奪われ、コミュニティも失われる。晩発性障害によって生命が脅かされる可能性もある。そんな事態を引き起こしかねない技術が倫理的と言えるのか。原発をやめるべきかどうか考える際、「どうやって」のまえに、「なぜなのか」(理由)を深く議論し、問い直した結果、原子力エネルギーの供給を段階的にやめる決断が下された。それは「社会の負うべき責務」だという。そして安全なエネルギー供給のため先端の科学技術を総動員し、その実行には十年という時間がかかると結論づけた。

 日本でも脳死基準や臓器移植や、人の生死をめぐる遺伝子操作などの著しい科学技術の進展をめぐって倫理の観点から語られたことがある。だが、なぜか原発がその対象にはならなかった。足元の生活を揺さぶられるのを無意識に避けたためだろうか。しかし、今回の福島の事故は、一億総懺悔して、みんなが被害者として悲しみあうだけではすまされない。日本においても社会倫理や社会哲学の問題として原発について論議すべきだろう。

 現実に原発を含むエネルギー政策を倫理の対象にしたところは、いかにもドイツらしい国民性を感じる。だが、ドイツが「脱原発」に踏み切れたのは、欧州で電力自由化が広がり、隣の原子力大国フランスから電力を輸入できるという事情もある。その点、島国の日本は他国に電力を求めることはできない。

その原発をめぐる「倫理」に加えて、地震国での原発のコストとリスクのほか、日米との安全保障や核戦略の問題も踏まえ、より冷徹で、「論理」的な検討が求められる。そのうえで中国、韓国が原発推進している東アジアのなかで、「脱原発」を貫く決意を固めなくてならない。

○「守るべき価値」とは何か

 私たちの社会にとって最も守らなければならない価値は何なのか。フクシマはまた、そんな問いを私たちに厳しく突きつけた。公正な社会とは何か。人間らしい生き方はどのようなものか。経済活動をするうえで社会的責任をどう考えるべきなのか。

 大震災と原発事故の発生から7か月もの時が流れ、ある程度冷静に事態を見つめられるようになったいま、そのような社会の理念や規範を議論していく好機である。爆発で無惨に大きく開いてしまった傷口をつぎはぎだらけの絆創膏で埋め合わせ、応急措置に追われたまま、従来通りの効率優先・功利優先の社会へと走りだしていいはずがない。

 原子力安全委員会も含めた日本の「政・官・産・学・メディア」による「原子力ムラ」という国家的利益共同体による「安全」神話に国民はすっかりと欺かれた。もはや原発の新増設を受け入れる自治体が出てくるとは考えにくい。老朽原発の延命は困難だ。国内の原発が順次点検入りし、再稼働への合意形成が出ない状況が続けば、来年6月には全停止する。

現実の事態は先行し、何もしなければ、原発は"頓死"し、日本は「脱原発」となる。野田首相は再稼働させる方針を明らかにしているが、まさに日本の未来を左右する大きな転機を迎えている。

 原子力産業は、大量消費社会を支えるエネルギー産業の中心を担う巨大なシステムだが、それはそのまま東京一極集中型の権力構造を作り出している。「脱原発依存」社会へとエネルギー政策の抜本的な方向転換を図るならば、それを糸口に政治システムを根底から見直していかなくてはならない。

 その転換は、経済成長の中で生じた地方と都市の格差の是正であり、過疎化・高齢化に陥った多くの地域社会の再生であり、都市の消費生活が地方における原発立地によって支えられている現実の見直しである。

言いかえれば、都市と地方の、都市消費者と地方の一次産業の生産者との人間関係を結び直し、分かち合いと支え合いの仕組みを作ることでもある。中央政府依存、大企業依存から脱して地方の自立を促すための条件を探っていくことが必要だ。

 豊富な電力は私たちの生活を確かに快適で便利にしてくれた。さまざまな苦痛から逃れ、楽しみや喜びの中にだけ生きようとする依存心を満たしてくれた。そんな日本社会の姿をかつて政治学者、藤田省三氏は「安楽の全体主義」と称した。

不透明な世の中にあって人々はリスクや不安から逃れたがり、過度な依存心が生じる。それが高じれば、他人や強い者に安易に服従し、全体主義にひきずられかねない。その処方箋として藤田氏は「自己克服」「平静」「忍耐」をあげ、それをもとに「生活のリズム感を、小規模な範囲においても再び我がものとすること」を強調していた。

 先日、中国の少年が、iPad 欲しさに自分の腎臓を売ったという新聞記事を目にした。一瞬、「何と愚かなことを」と思いながらも、便利で経済的な豊かな生活のために「いのち」を粗末にしてはいないか、とわが身を振り返らざるをえなかった。原発を容認し、さまざまな次元で環境破壊を容認してきた私たちは、この少年の行動を一笑に付すことはできない。

 そしていま、「あるべき社会」を議論していくための時間と場所を失うならば、日本を長期的に成熟させる道を途絶えさせることになる。

○「発送電」分離の断行を

 エネルギーの供給構造は社会の骨格をなす。これからの日本のエネルギーや産業をどう再配置していけばいいのか。国交省の国土審議会「防災国土づくり委員会」は7月、「東京圏の機能分散し、地域ごとに電力供給のインフラ整備をすべき」との提言をまとめた。首都直下地震などを想定し、東京圏の機能分散、バックアップを検討する一方、地域ごとの自立分散型の電力システムの構築を明確に述べている。

 自然エネルギーなど「地産池消」型を推進することは当然であり、この提言には基本的に同意できる。分散型の環境負荷の掛からないエネルギー供給システム(=分散型の社会システム)への変更は、市民参加型の社会に変えていくことにつながっていくからだ。

 これまではあらゆることを中央行政に依存し、なんでも「任せる政治」となっていた。しかし、原発事故を機に「他人事でない。自らファンドを作り、地域電力会社を引き受ける」という自治精神をよる「引き受ける政治」「自らが主人公になる社会」が求められている。

今後、自立分散型の電力システムを構築していくのであれば、20年、30年先の社会を念頭に置き、具体的な長期戦略を描き、大胆な電力改革を断行しなくてはならない。その要点は次のようになる。

 ①世界的に一般化されている「発送電分離」を断行し、全国一律の送電を公的管理とする。発電は完全自由化し、ただし原発事業は国家管理して期限を設けて全廃する。
 ②原発稼働率は現在でも2割程度で、それでも電力は足りており、原発分は天然ガスを使った火力発電所を増設することでカバーする。
 ③大都市部での自治体、大企業の自給電力を増やす(東京都では、原発1基分に相当する100万kw級の天然ガス発電所を4年後に完成を目指し、大阪市や関西広域連合も同様の発電所の誘致に向け調査に入っている)。
 ④豊富な地熱資源がある九州、東北、北海道地区では、本誌前号で提言したように、地熱発電への開発投資を急ぐ。
 ⑤太陽光、風力、小水力、バイオマスなどの自然エネルギーを利用した市民共同発電所の建設を促進する。自然エネルギープラントの立地について固定資産税をゼロにするといった枠組みをつくり、「エネルギー共同体自治」を促進する。

 近年、世界各地で「シェールガス」という新タイプの天然ガス資源がたくさん見つかった。その安定供給が見込まれるため「シェールガス革命」が到来すると新しいエネルギー源に関心が高まっているが、日本にはその資源はない。要するに、日本ではさまざまな電力源を組み合わせ、ネットワークをつくりあげ、電力を確保するしかない。

○「分散自立」型社会の形成を

 さらに環境対策を景気の刺激、雇用の拡大につなげる「グリーンエコノミー」に積極的に取り組み、日本版「グリーンニューディール」政策を展開していくべきだろう。各地域の資源を最大限に活用する仕組みを自治体、NPOなどが連携して創り上げ、人々の絆の再生を図っていく。そして地域から人材、資金が流出する中央集権型の社会構造から分散自立・地産地消・低炭素型に転換させていくことだ。

 地域の自給力や創富力(富を生み出す力)を高める地域主権型社会を実現しようという動きは日本各地に静かに広がっている。「売り手よし 買い手よし 世間よし」の「三方よし」という近江商人の発想で、太陽光発電による市民出資型の共同発電所を拡大している滋賀県東近江市もその一例だ。

売電益を地元商店で流通可能な地域商品券で分配し、環境ビジネスや雇用などにもつなげ、市民自らが地球の未来に対する責任を持とうという分散自立型のシステムづくりへの挑戦でもある。これを一時的なブームに終わらせず、各地域のネットワークを作り上げ、国全体へと広げていくことが必要だろう。

 放射能汚染大国に生きていかざるをえない私たちは今、逆境の中にある。放射能汚染は、目には見えないし、匂わない。一見、何の変化もないように見える国土は日々侵されているが、その「目に見えない」現実をどう見つめ、向き合っていくのか。それがどれほどにむごい事実でも、正面から向き合う以外に人間として生きる術は無い。そこから希望を探り出していかなくてはならない。

 フクシマは日本社会、ひいては人類に対する警告だ。大人たちの無知と無責任な行為によって、胎児、乳幼児、そして少年少女たちの将来を破壊することはもはや許されない。フクシマを体験した日本は、これ以上の悲惨を繰り返さないために「核なき世界」の実現に向けてふたたび先頭に立たなくてならない。それは日本人自らが自覚しなければならない現実でもある。まずは「いのち」を大切にする地域社会を身近なところから創りあげていくことから出発するほかない。

池田知隆オフィシャルサイト
http://ikedatomotaka.main.jp/
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