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すり替えられた「冷温停止」 年内宣言も消えぬ不安

すり替えられた「冷温停止」 年内宣言も消えぬ不安

フクシマノート
日経2011/11/17

 2011年末。未曽有の事故を起こした東京電力福島第1原子力発電所が大きな節目を迎える。政府が「冷温停止状態」の達成宣言を予定しているからだ。3月の東日本震災以降、原発事故に振り回され続けた福島県民の期待も大きい。だがここにきて雲行きが怪しくなってきた。政府が10月下旬に県内で開いた専門家会合で、冷温停止のあり方を巡って批判が相次いだのだ。本当に事故は収束するのだろうか。県民の不安は尽きない。

 福島第1原発から約50キロ離れた福島県いわき市。この町で経済産業省原子力安全・保安院は10月22日、福島第1原発の中期的な安全確保に向けた意見聴取会を開いた。最も深刻な被害を受けた福島県で専門家会合を開くケースは珍しい。だが会合は冒頭から政府が年内にも企図する「冷温停止」宣言の定義を巡って紛糾した。

■「冷温停止」は不適切な表現

 「(原子炉内が)100度以下になったからといっても冷温停止ではない」「注水しているだけで汚染水は増えており、安定した冷却にはほど遠い」――。

 これまでも冷温停止の定義を巡って疑問の声は出ていた。だが公の場でこれほど専門家の批判が相次ぐケースは珍しい。保安院の担当者は厳しい指摘に対し、こう回答した。「ご指摘のように『冷温停止』ではなく『冷温停止状態』です」


冷温停止の定義 冷温停止 原子炉の水温がセ氏100度未満で安定した状態。制御棒が挿入され、核反応が連続して起こる臨界が止まっている
冷温停止状態 圧力容器底部の温度がセ氏100度以下で格納容器からの放射性物質放出を管理し、追加放出による公衆被曝(ひばく)線量が大幅に減る

 「冷温停止」は本来、通常の原発で原子炉の水温が100度未満になって安定した状態を指す言葉だ。制御棒が挿入され、核分裂が連続して生じる臨界が起きていないことを示す場合に使う。

 もともと事故を起こした福島第1原発に対して使うには不適切な表現とも言えた。




爆発で原子炉建屋が破損した福島第1原子力発電所(11月12日、福島県大熊町)=代表撮影

 だが政府や東電は(1)圧力容器底部の温度がおおむね100度以下にとどまる(2)格納容器からの放射性物質の放出を管理し、追加放出による公衆被曝(ひばく)線量を大幅に抑えられる――状態を「冷温停止状態」と改めて定義。国内外に向け、年内に達成するという目標を打ち立てた。

 政府が「冷温停止」という言葉にこだわる背景には、政治的な思惑があったとされる。菅直人前首相が6月に退陣を表明した際、福島第1原発の冷温停止が首相を辞める条件として取り沙汰された経緯もあるからだ。この時点で「冷温停止状態の達成」は政治目標になり、事故収束を科学的な見地から説明する言葉としては既に意味を失っていたのかもしれない。

■無視された専門家の意見



冷温停止のあり方を巡って専門家から批判が相次いだ原子力安全・保安院の聴取会(10月22日、福島県いわき市)

 専門家の疑念をぬぐえぬまま、保安院は11月11日、前述の聴取会などの意見を踏まえ、東電による収束に向けた中期的な防止策は妥当との結論を発表。冷温停止を巡る専門家の意見は完全に無視された。

 保安院はこう弁解した。聴取会の検討課題は「冷温停止状態」に入った後の12年から3年間程度の安全対策であり、そもそも冷温停止の定義に関する意見を考慮する場ではない――。

 政府が年末に宣言する可能性が高い「冷温停止状態」の達成。実態を伴わない言葉が踊る宣言を県民はどんな思いで聞くのだろうか。地元の願いは科学的な見地からも認められる本当の事故収束宣言。決して政治的なパフォーマンスなどではない。

(竹下敦宣)


 「フクシマノート」は、福島県内の支局記者を中心に、福島第1原子力発電所事故の現状や影響を専門的な見地を踏まえて書き下ろす現地ルポです。ビジネスリーダーと「震災取材ブログ」に随時掲載します。
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